LIFE LOG(ホネのひろいば)

僕は、ワクワクすることに時間や情熱を注ぎたかった。【写真との出会いから独立するまでの話⑥ 最終話】

 

すべてに首をつっこんだ助手生活

 僕の第2の助手生活は、もうとにかく色んな仕事に取り組んだ。

 

師匠にも、なるべく全ての仕事に関わりたいと、最初に伝えた。

可能だったら打ち合わせも一緒に行きたいし、どういう風に写真を作っていくか一緒に悩みたい、そのために全力でサポートしていきますと。

我ながら図々しかったと思うけれど、幸い師匠はそのやり方を歓迎してくれた。

 

撮影のときの、基本的な流れはこうだ。

まず、打ち合わせに師匠と一緒に行く。

そして、仕事の内容と撮影するヴィジュアルを僕も共有する。

師匠が、こういう風に撮りたいという方針を決めたら、それを実現させる方法を一緒に考える。

プランが固まってきたら、撮影場所や必要な機材を、師匠と相談しながら準備する。

もちろん撮影にはアシスタントとして同行する。

 

そんな風に、仕事の最初から深く関わっていたから、仕上がってきた写真を師匠と確認するときには、喜びや達成感を分かち合うことができ、まるで自分も撮っているかのような感覚を味わえた。

 

最初の頃は、マネージャーもいなかったので、僕が電話対応をしていたし、請求書書きから、経理の手伝いもしていた。

撮影以外のことは全部やってたと思う。

 

これは、他にスタッフがいなかったからこそできた貴重な経験だった。

撮影のことは、他の人の助手についても、サードやセカンドアシスタントで入っていても身につけることはできる。

でも、事務仕事やギャラの交渉、電話応対なんかはどこまで学べるかは微妙。

そして、独立するとき結構重要なのが、このあたりの業務をわかっているかどうかだったりする。

最初は人を雇う余裕もないから、全部自分でやらなければいけないし、スタッフが入ったとしても、このあたりの流れを理解していると、とてもスムーズだ。

 

巨匠のところにいった場合、その仕事ぶりを近くで見ることができるという大きなメリットはある。

でも、存在が大きすぎて、僕がしていたように全てに深く関わることはたぶん難しい。

僕は、独立するために必要なことを全てを、3年で学びたいという目的があった。

そのために、仕事の全てに関わりたいと考えていた。

だから、こういう言い方は失礼かもしれないけれど、まだ完成していない人、これからどんどん伸びていく人の元へ行き、勉強しようと決めていたし、それは僕にとって正解だった。

 

作品撮りは、あえてしなかった。

25歳で独立という目標に向けて、僕は動き回っていた。

休みのときも、僕は事務所に行き、暗室にこもり、

師匠の撮ったネガを、師匠のものを手本に、師匠と同じように焼くという練習を繰り返していた。

 

この時期、作品撮りはほとんどしていなかった。

写真を撮っていなかったわけではないけれど、いわゆる人を集めたり、セッティングしたりなど、凝った撮影は全然しなかった。

お金がなかったというのもあるけれど、正直今の自分が作品撮りをしても、あまり意味はないと思っていた。

 

腕も未熟で、経験不足なカメラマン助手が、同じようにメイクやスタイリストの見習い、そんな見習い揃いの撮影に来てくれるモデルを集めて撮影をしても、正直言って大したものはできない。

 

もちろん見習い同士で撮影をして、一緒に勉強していくという意味はあるかもしれない。

でも、それより、本当の仕事での撮影で、周りは自分よりも経験のあるプロばかりで、失敗することが許されない、責任が強く発生する緊張感の中で撮る方が、身になると考えていた。

 

だから、まず仕事を頂ける立場になれるよう、もっと勉強することがあると思っていた。

師匠と同じレベルで現像ができるようになること、

撮りたい画を生み出すライティングができるようになること。

作品撮りは、これからでもできるけど、師匠の元にいる間は限られている。

今しか学べないことを、全力で吸収したかった。

 

そういう理由で、作品撮りはしていなかったけれど、時々友人を撮ったり、街中で気になる人に声をかけて撮らせてもらったりなどはしていた。

 

これは面白かった。

友人のポートレートを撮る機会なんて、あまりないけれど、

いざ撮影してみると、記念になるし、本人も喜んでくれる。

 

街中で気になる人に声かけて撮るっていうのは、僕の性格ならではかも。

この話はまた別の機会にできたらと思うけれど、

僕は、ストリートスナップってあまり撮らない。

気になった人がいると、どうしても声かけて話したくなっちゃう。

そして、おしゃべりした後に写真撮らせてもらう。

三者的な立場からではなく、関わりをもったものを撮りたい性分なんだろうね。

だから、皆カメラに目線を向けている写真となる。

いきなり親しくなった人は、くだけた笑顔を向けてくるし、

初対面で緊張が残っている人は、それが写真に反映する。

それがいい。そういうのが好きだった。

 

あとは、いつも露出計を持って出歩いていた。

何をするかっていうと、街中や喫茶店なんかで、いいなと思うところがあったら、光を測る。そして、「この数値ならこうだな」とか、頭の中で写真を撮る。

これは、フィルム代も惜しい金欠助手時代ならではって感じ。

でも、こうやって「光を読む」ことは、その後とても役に立った。

数値を読んで、自分の撮る写真を組み立てる。

何となくではなく、目的をはっきりさせ、狙って写真を撮るという訓練になった。

 

こうやって書いてみると、作品撮りはしてなかったけど、

自分なりに考えて練習してたんだなって思う。

 

f:id:mmps-inc:20200104055241j:plain

 

とんねるずのファーストアルバムの仕事で独立

25歳も近づき、いよいよ独立を決めた僕は、周囲に声をかけ、ありがたいことにお仕事をいただくことができた。

初めての仕事は、とんねるずのファーストアルバム「成増」のレコードジャケットの撮影。

 

今となっては、とんねるずの存在は揺るぎないものとなっているけれど、当時は、すごい勢いで売れ始めた若手コンビって感じだった。

 

そんなとんねるずは、実は高校の後輩だったりする。

僕が3年の時に、彼らが1年。

特に顔見知りというわけでもなかったけれど、僕は彼らが入っていたサッカー部と野球部に友達が結構いたので、その人たちから「今年の1年に、すごい面白いのが入ってきた」っていう話を聞いて、存在は知っていた。

その後、彼らをどんどんテレビで見かけるようになり、「これが、あのサッカー部と野球部のやつらかあ。すごいなあ。」って思っていた。

僕はお笑いがすごく好きなので、彼らを撮るって決まったとき、すごく嬉しかった。

 

撮影のときに同じ高校だということを明かすと、二人はとても驚いていて、そのあとは、面白かった先生の話や学校の内輪ネタで大盛り上がり。

 

とんねるずとは、その後もセカンドアルバムのジャケット、ファーストコンサートのポスター、コンサート当日の撮影で一緒にヘリコプターに乗り込むなど、共に仕事を何度もさせてもらった。

 

皆知っている存在だから、「とんねるずのレコードジャケットでデビューしました」って言うと、通じるし、ちょっと誇らしい。結果として、とても幸運な初仕事を飾ることができた。

 

心は熱く、頭は冷静に

そうやって、僕は目標としていた25歳でめでたく独立を果たす。

とても嬉しかったけれど、

「ほら、できるじゃん」って感じだった。

 

これは、とても単純な話で、僕はできるようにやってきた。

だから、できて当たり前と思った。

 

もちろん、僕も何もかもスムーズだったわけじゃないよ。

悩むこともあったし、壁にぶつかったこともあったし、

仕事に行けなくなりそうなときもあった。

 

でも、自分の行きたい道は決まっていた。

 

物事って、大切な部分はとてもシンプルだと思う。

 

やりたいことがあったら、

実現する方法を考える。

途中で違うなと思ったら、またできそうな方法を考えて、実行する。

その繰り返し。

 

とはいっても、やりたいことがあっても向き不向きはある。

狭き門で過酷な椅子取りゲームになることもある。

 

それでも、考えてやってみる。

やってみたら、きっと色々わかる。

意外と今まで目が向かなかったことで、才能が開花することもある。

正面突破にトライして跳ね飛ばされても、その先で脇道に気づくかもしれない。

 

自分の中に「これ、してみたい」って思いがあるなら、取り組んでみればいい。

懸命な大人たちは、「ちょっと落ち着いて考えよう。現実を見て冷静になりなさい」とか言ってくるかもしれない。でも、その言葉は半分だけ聞いておけばいい。

心が熱くなれるものに出会えたら、絶対やった方がいい。

冷静になるのは頭だけでいい。

それこそ現実を見極めて作戦を練ればいい。

やるべきことをはっきりさせて、それをこなしていけばいい。

 

試行錯誤すればいい。

方向転換してもいい。

 

うまくいっていないときに、自分の人生は判断しない方がいい。

そうしたら、ただの失敗で終わってしまう。

うまくいっていないときは、軌道修正するチャンス。

うまくいったときに、物事は判断するのがいい。

そうしたら、過去の失敗も後悔も何もかもこのためにあったんだって思える。

 

僕は、ワクワクすることに自分の時間や情熱を注ぎたかった。

だから、それでメシを食う方法を考えた。

そして、今でも何とかギリギリやっている。

 

あのポスターを見たときに湧き上がった熱が、僕を今ここに運んでいます。

 

僕が、写真と出会ってから独立するまでの話はこれで終わり。

思ったより長くなってしまった。

次回からは、仕事をしてきたなかで感じたこと、考えてきたことをお話していこうと思います。

 

引き続き、よろしくお願いします。

 

f:id:mmps-inc:20200104055313j:plain

 

【こちらはYouTubeの動画をブログにしたものです。
元動画はこちら→https://www.youtube.com/watch?v=l3kSkxe9Ypw
※ブログだけの話もありますので、ぜひ両方お楽しみください。】