LIFE LOG(ホネのひろいば)

僕が企画を持ち込むときの秘密を教えます。大事なのは、誰とどうプロセスを楽しむのか。

  

最初の事務所は西新宿

25歳で独立し、僕は西新宿に事務所を構えた。

1DKのマンションで、さほど広いわけでも豪華な建物でもなかったけれど、

家賃は、それまでのアシスタントの給与より高かった。

 

前回、お話したように、僕の初仕事はとんねるずのレコードジャケットなのだけど、そのギャラを最初の家賃のあてにしていた。

そうすれば少なくとも1ヶ月は何とかなる。

電話も引いたし、当時は超高価だったFAXもリースした。

その後の費用は、これから仕事をして稼ぐつもりだった。

うーん、完全な見切り発車。良い子はマネをしないでください。

 

写真を持たずに挨拶回り

事務所を立ち上げたあと、僕は独立の挨拶も兼ね、色んな事務所や編集部に営業に回った。

カメラマンの営業なのだから、普通は「私はこんなものを撮っています」と、見せるための写真を持っていくものだけど、僕は最初の挨拶回りに写真を持っていかなかった。

先に発送しておいた独立の挨拶状にも、写真は載せず、文章のみ。

前回のお話の通り、僕は作品撮りをしていなかったから、彼らに見せる写真がまだなかったのだ。

 

そんな状態で営業に行って、何をしたかっていうと、

僕はこういう人間です、こんなことがしてみたいです、写真を通してこんな風に社会と関わっていきたいですとか、そんな風に、自分の事とこれからの展望や夢を話しまくった。

アシスタント時代に付き合いのあったところは、すでに僕のことをよく知ってくれているから、そうやって話をすると、じゃあ規模は小さいけどこんな仕事やってみる?みたいな感じで何本も仕事をもらうことができた。

 

付き合いはあまりなくても、この人とは絶対に仕事したい!と思ったアートディレクターのところにも営業に行った。

そのときも、写真はなし。同じように話をするだけ。

ちょっと気取った言い方をすると、写真じゃなくて、僕を見てもらいに行った。

「今、お見せできる写真はありません。ぜひこれから一緒に作っていきたいです。だから、僕を育ててください」ってお願いをした。

それで、こいつ何か面白そうだから使ってみようとか、何か一緒に考えてみようと思ってもらえればいいなと考えていた。

幸いにも、それで仕事をもらうこともできた。

 

正直言って、このやり方が正しいのかはわからない。

たぶん、多くの人とは違うのかも知れないけど、当時は今より情報が手に入りにくくて、他の人がどうしているのかわからなかったから、自分流でやるしかなかった。

今だったら、さすがに写真は持っていくかな。

当時も、挨拶に行ったとき「あれ、写真は?」って、何度か言われたし。

僕なんかそのときに初めて「ああ、写真って持ってくるものなんだな」って思ったんだから、無知って恐ろしい。

 

でも、当時はそれでいいと思っていた。

そこには、一応僕なりの理由があった。

 

ほとんどの仕事は期待だけで依頼される

これは写真に限らず、ほとんどの仕事についてそうだと思うけど、仕事というのは依頼される段階では、完成品というものはまだ存在していない。

 

写真で言えば、「この広告を撮ってください」と依頼がくる段階では、当たり前だけど、そこに完成品はない。

「この人に撮ってもらおう」という期待で、仕事は依頼される。

通常、その期待値は、それまでの実績によって決まるけど、当時の僕には、まだ実績もなければ、参考になる写真もない。

でも、要は「この人に撮ってもらいたい」と思われればいいんだよね?と僕は思っていた。

だから、そう思ってもらえるように、言葉を尽くした。

それが、今思えば無謀とも思える写真なし営業の理由。

 

この「この人ならできそうだな」って思ってもらえるのは、すごく大事。

仕事はそれですべて決まると言ってもいい。

そして、一度仕事をした相手から、「また一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるかどうかが重要。

これで、食っていけるかどうかが決まる。

 

そう思ってもらえるにはどうすればいいのかって話は、今書きだしちゃうと、とんでもない長さになるから、改めてまた伝えていきたい。

 

でも「こうすればいい」と簡単にハウツーで伝えられるものでもないんだよね。

ハウツーだと、どうしても表面的なものになってしまう。

 

本質はひとつ。表し方は人それぞれ。

 

あなたは何の仕事をしていますか?

今までどんな生活を送ってきましたか?

どんな人と仕事をしていますか?

今後、どうしていきたいですか?

 

僕は僕が経験したことを伝えることしかできない。

だから、そこから何かを拾ってもらえたらと思う。

それがこの「ホネのひろいば」です。

 

f:id:mmps-inc:20200109133721j:plain

 

僕が企画を持ち込むときの秘密

そんなことを書きながら、さっそくハウツーっぽいものを書いてしまいます。

といっても、ハウツーっぽいけど、本質はそこじゃないって内容なんだけど。

 

僕は生きる上において、プロセスを大事にしています。

仕事の評価はすべて結果で行われて仕方のないことだけど、個人として大事にしているのはプロセス。

誰と一緒に、どう楽しむか、です。

 

独立した頃の営業では「こんな僕です。こんなことがしたいです。あなたと一緒にしたいです」とアピールをした。

そして実際に仕事につなげることができた。

 

そして、これは今でもそうなんだけど、僕は企画の持ち込みをするとき、完成したものを持っていかない。あえて足りない部分というか、穴を残しておく。

実際に自分の中でちょっと迷っていたり、もっと良いプランはないか気になっている部分だったりするんだけど、そういう部分をあえてそのままにして持っていく。

そして、プレゼンしながら相談をする。

ここだけ決めかねてるんですけど、どう思いますか?とか、

この部分が少し弱い気がするんだけど、どうしたらもっと良くなると思いますか?とか、

イデアがあったらぜひ教えてもらいたいって、相談相手に委ねる。

 

そうすると、何が起きるか。

相手が一緒になって、考え始めると、もうそこで僕とその人の化学反応が始まるんだよね。

僕が提案をしに行っているのにも関わらず、相手がその企画を一緒に考える人になってくれる。

 

企画の持ち込みって、なかなか勇気がいるかもしれないけれど、

持ち込まれる側にしてみれば、ある一定以上のクオリティは必要だけど、決して迷惑なことではない。

これは、僕が編集者からも聞いた話です。

週刊誌だったら、月に4冊も作らなきゃいけないし、WEBだと毎日更新も珍しくない。

イデアや企画は常に不足している。

だから、面白いものを思いついたら、飛び込んでみるのはありです。

そのとき、完成した企画を持っていくことも決して悪いことではないけれど、

その場合、相手はその企画を採用するか不採用にするかの選択肢しか持たないから、

相手の好みに合わなかった場合は、ボツになってそこで終わってしまう。

そうではなく、一緒に考えてもらって、相手を巻き込んでしまうのがおすすめ。

 

もちろん元々の企画が魅力的であることは大前提だけど、隙を残しておく。

相手が考えてるうちにワクワクしてくると、何とかこれ形にしたいねっていうモードになる。

そうするともう仕事は始まっている。

一緒に考えたことになるから、企画が実現したとき、二人で一緒に喜べて、達成感を分かち合える。

 

だから、「これ、ロケ場所思いつかないなあー。どこがいいかなあ」っていう一言が僕のプレゼンになったりする。

 

その結果、編集の人と一緒に車でロケハンに行ったこともあるよ。

二人で見つけた、ここだ!って場所で撮影した仕事は、今でもよく覚えてる。

 

誰と、どうやって、プロセスを楽しむか?

「企画には穴を残しておく」。これはハウツーだけど、この話で僕が伝えたいのは、「あなたは誰とどうやってプロセスを楽しみますか?」っていうところ。

 

仕事に限らずだけど、何事も自分や自分の考えに固執しすぎない方がいい。

柔軟性があって、隙間のある、ゆるゆるな自分の方が色んなものが入ってくる。

 

カメラマンの仕事で言えば、自分のアイデアを全てだと思わない方がいい。

どうせね、撮影すれば自分らしさってにじみ出ちゃうから。それが個性ってものだから。

 

良い写真は撮りたい。

でも、そこに至るまでのストーリーというか、どういう風にそこにたどり着くかを僕は楽しみたい。

仕事に限らず、人生もそう考えてる。

 

生まれたからには、いつか死んでしまう。

人生には色んなイベントがあるけれど、そこで自分にとって最良のものを手に入れることだけにこだわるのではなく、それを目指す過程も、最後に何かを手に入れる過程も僕は味わいたい。

誰と共に楽しむかを大事にしたい。

 

「人生、死ぬまでの暇つぶし」。

これが僕のモットーなんだけど、どうせなら楽しく暇つぶししたい。

それが全て。

 

僕はカメラマンをしていているけれど、本当はそれすら重要なことではないです。

カメラマンという職業を通して、自分がどうやって日々を楽しむのか、誰とプロセスを共にするのか、そっちの方が大事。

そんなことを思いながら、毎日を過ごしています。

写真はそれを記録してくれる伴侶です。

 

【こちらはYouTubeの動画をブログにしたものです。
元動画はこちら→https://www.youtube.com/watch?v=zXoOaXWu7io&t=43s
※ブログだけの話もありますので、ぜひ両方お楽しみください。】