初めての助手は10ヶ月間。そして独学。【写真との出会いから独立するまでの話③】
現場は面白くて仕方なかった
カメラマン助手として働き始めた僕は、現場に夢中になった。
テキパキと仕事をするスタッフ達。雑誌やテレビで見たことのあるモデルやタレントの姿。シャッターの音。漂う緊張感。撮影が終わった瞬間の空気。
とにかく出会うもの全てが新鮮だった。ワクワクした。
師匠が現場でスタッフとどう関わるのか、どう仕事の流れを作るのかとか、そういうのを見るのも勉強になったし、楽しかった。
フィルムの現像が終わると、セレクト作業をする。
編集者とあれこれやりとりし、数カ月後には雑誌に載り、店頭に並ぶ。
手に取って眺めると、「ああ、この現場に僕はいた。ここではこんな仕事をしていた」と撮影時の様子を思い出された。
「ああ、これだ!」って思った。「僕がしたかったことはこれだ」って。
助手を始めた当初は、まだ学校にかろうじて在籍はしていたのだけど、現場で仕事をするにつれ、僕の中で学校に行く必然性がどんどんなくなっていき、ほとんど通わなくなっていった。
師匠を紹介してくれた先生に「現場の方が面白いので、学校来なくていいですか」と言ったら、「はい、来なくていいですよ~」って言われたのを覚えている。
「○○であるべき」という既成概念があまりない先生で、さり気なく上手に僕を導いてくれた人だった。
そうして、入学から一年後、僕は正式に写真学校を辞めた。
知識が足りない!最初の助手は10ヶ月間
僕は、その師匠の元で10ヶ月程働いた。
「たった10ヶ月?」と思う人もいるだろう。
その通り。
19歳の僕は壁にぶつかる。
現場に出る回数が増えるにつれ、仕事は覚え、作業のスピードも早くなっていくのだけど、今やっている作業が何のためなのかという所が、しっかりとは理解できていなかったり、これから行う撮影の内容に合わせて先回りの準備しておくなどの面が弱かった。
周りのキビキビ動くスタッフを見て、だんだん僕は焦り出した。
「やばい、俺、何にも出来てない!」
圧倒的に基礎が足りないこと、もっと写真の知識が厚くなければいけないことに、僕はそこでようやく気付くことになる。遅いよ!
なんで学校行っている間に気づけなかったんだろうと思わないでもないけど、結果として、僕はこれで良かったと今でも思っている。
実際に現場に出たからこそ、自分に不足しているもの、何を学ばなければいけないのかを体でわかることができたし、自分がどこまでなら通用するのかということも見ることができた。
そして、「自分がいきたいのは『ここ』だ」と、改めて目標をしっかりと構えることが出来た。そのためにやるべきことを考え、どんな風に学んでいこうか、自分で決めることができた。
もし、写真学校に通ったままだったなら、僕はバイトに時間を使い、あとは皆で飲み歩いたりする日々になっていたような気がする。
考えた結果、師匠には、自分には圧倒的に基礎が足りず、勉強をし直さないといけないので、一度辞めさせてくださいと、そのまま正直に伝えた。
写真集と映画で勉強
その後、僕は一年間アルバイトをしながら、独学で写真を勉強した。
主な教材は写真集と映画。
銀座に、ものすごい数の写真集を揃えている、個人図書館のような場所があり、僕は足繁くそこに通った。
そこは「メイユウ図書館」とか、そんな名前だったような気がするけれど、このブログを書くためにネットで調べたところ、出てこないので間違っているかもしれない。今はもうない可能性が高い。
とにかくそこにはたくさんの写真集があって、海外のものも多かった。
今みたいにネットで簡単に画像を見たりできないから、初めて見るものがほとんどで刺激的だった。
僕の勉強法は、写真をひたすら分析すること。
どうやって撮っているのか。
自分の好きな作風はどんなものなのか。
どういう風に光が使われているのか。
なんでここはこうやっているのだろうとか。
自分が感じたことを整理して、言語化していった。
そのときの僕には、もう現場の経験があるから、「こういうセッティングをして撮ったんだろうな」とか「きっとこういう考えでこうしたんだろうな」ということを、ある程度は予想することができた。
先生がいるわけではないので、その分析が正しいかどうかはわからない。だけど、きっとこうだろうとか、これはどうやってるんだろうとか、自分が感じたことを深く追求していった。そうやって勉強をしていた。
洋書店でアルバイトしていた写真学校時代の友人がいたので、そいつが手に入れた、「VOGUE」や「Harper's BAZAAR」、「ELLE」などを一緒に見て、研究したりもした。
それらの洋雑誌は、写真やファッション、カルチャー、全てにおいて当時の最先端だった。
簡単には手に入らないし、値段も高価だったので、その友人には助けられた。
あとは、
映画を観た。
それはもう、たくさん観た。
映画はめちゃくちゃ写真の勉強になるよ。
まず、映画は三次元を二次元の中で表現している点が写真と一緒。
映画はその中で動きがあるから、「さっきの所よりも、ここからのアングルの方が写真としては良いな」とか「このカットは、写真として十分成立するな」とか、そういう見方ができる。
写真では、ストリートスナップとか、作り込んだ状況ではないものを撮影することもあるけれど、映画というものは基本的に「こういう画が欲しい」というものがあったうえで、その状況を待つか、作り出して撮影している。
それを意識しながら映画を観ると、とても勉強になる。
特にライティング。
登場人物を美しく見せたり、感情表現をもしたり、とにかく手間もお金もかかっている。
余談だけど、僕は撮影でレフ板を下からあてることは、まずない。
太陽の光も、室内や屋外の照明も、基本的に光は上からくるからだ。
だから、影を飛ばしたいときもレフ板は顔より上、せいぜい同じ位の高さで、光を調節する。
自然に。だけど意図を込めて。
これも、映画から学んだことの一つ。
映画でも、狙いがない限り、照明は上からあてられる。
同じ理由からだ。
シーンに合わせて、欲しい光を再現、演出する。
不自然さはないのに、しっかりと製作者の意図が反映される。
僕もそうしている。
あと、僕はカメラを手持ちで何気なく撮っても、水平垂直をビシっと出しちゃうのだけど、これも映画の影響。
映画では、雲台にカメラを固定するとき、まず水平垂直をきっちりと出す。
でないと、カメラを動かしたとき世界が歪んでしまう。
歪ませたり、ぶらせたりするのは、狙いがあるときだけ。
映画を観まくっていた僕にはその世界観が染みついていて、必ず水平垂直を無意識に出している。
他にも、映画はシチュエーションやロケーションの使い方も学べるし、何より自分がどんなものワクワクしてホロッとして心動かされるのかわかるのがいいよね。
映画は写真の教材の宝庫だよ。
こうやって僕は勉強していました。
お話はまだつづきます。
【こちらはYouTubeの動画をブログにしたものです。
元動画はこちら→https://www.youtube.com/watch?v=wYzO8YuGPjY
※ブログだけの話もありますので、ぜひ両方お楽しみください。】